七代目友七が集めた書画から旅籠屋丸一のもてなしが見えてくる

利用イメージ(AI生成)の水彩イラスト。古い宿の入口と架空の書を描いたもので、旅籠屋丸一の実際の玄関や所蔵作品の再現ではありません

旅籠屋丸一の館内で書や絵に目が留まったら、作品の上手下手だけでなく、ここへ来るまでの道筋も思い浮かべてみてください。公式の書画案内には、七代目の友七が、芸術家たちが宿泊代の代わりに描いた書画を集めていたとあります。旅人を迎える宿が、その人の手によるものを受け取った。丸一の書画には、そんな交換の記憶も残っています。

この話は、絵の由来をすべて説明する魔法の鍵ではありません。どの作品を誰がいつ描き、どの宿泊と引き換えたのか、公式案内にないことまで決めつけるつもりはないのです。ただ、作品の前に立つとき「ここは宿だった」という当たり前の事実が、少し面白くなります。美術館の白い壁とは違い、丸一では人が泊まり、食べ、翌朝には出発していく。その生活の場所に書画があるからです。

宿泊代の代わりに残されたもの

物を受け取るとは、お金の代わりを受け取るだけではありません。紙を選び、筆を持ち、線を残すまでに相手が使った時間も一緒に預かることです。七代目友七が何を考えて作品を集めたかは、本人の言葉がなければ分かりません。けれど、公式サイトに残る「宿泊代の代わりに描いた書画を収集」という一文だけでも、この宿で客と宿のあいだに生まれた関係の一端を知ることができます。

利用イメージ(AI生成)の水彩イラスト。筆と硯のある架空の室内を描き、七代目友七の所蔵品や当時の現場の再現ではありません
筆のある時間を思い描いたイラスト。友七の持ち物や当時の場面の記録ではありません。

公式案内が紹介する作品の一つには、一枚一枚を切らずに残した珍しい書画もあります。現在どの作品をどこで見られるかは展示替えに左右されますが、紙を切り離さない選択には、作品のまとまりをそのまま伝える力があるように思います。ひとつの部分だけを額に入れれば、そこはきれいに見えるでしょう。でも続きのあるものを続きのまま置くと、描いた人の手の運びや、描かれた場の空気を想像する余地が生まれます。

ここで「昔の宿はみんなそうだった」と広げることはできません。丸一の公式記録から確かめられるのは、七代目友七と、宿泊代の代わりに描いた芸術家たちの作品があったということ。珍しいからこそ、話を大きくしすぎず、残された言葉の範囲で大切にしたい逸話です。

三百点以上を一度に見せない面白さ

丸一の公式書画案内には、蔵に眠っていた書画が300点以上あり、季節に合わせて館内や客室に展示していると記されています。数字だけを見ると大きな収蔵庫を想像するかもしれません。でも、宿での楽しみ方は全点を一日で見ることではありません。玄関から客室へ歩く途中、あるいはふと座った場所で、その日に掛けられている一枚と出会う。季節によって作品が替われば、同じ廊下を通っても目に入るものが変わります。

利用イメージ(AI生成)の水彩イラスト。書画を飾る架空の宿の廊下で、丸一の実際の館内や展示作品とは異なります
館内で書画に目を留める場面のイラスト。実際の展示や通路の写真ではありません。

題名や作者を先に読むのもいいですが、まずは線の速さを眺めるのもおすすめです。すっと引いたように見える部分、墨が少し留まった部分、余白の広さ。専門知識がなくても、目が追いかけられるものがあります。絵なら、描かれているものより、どこへ視線が連れていかれるか。作品と向き合う時間を長く取る必要はありません。たった数秒でも「これは何だろう」と思えたなら、その一枚は旅の中に入ってきます。

展示が入れ替わる以上、この記事で特定の作品を「今ここにあります」とは案内しません。公式ページには現在公開していない作品も明記されています。見たい書画が決まっている場合は、事前に宿へお尋ねください。作品の状態や館内の利用状況によって、ご案内できる範囲も変わります。

書画と一緒に館内を歩く

旅館の中では、移動のほとんどが短い距離です。玄関から部屋、部屋から食事処、湯のあとに戻る廊下。その途中に書画があると、目的地へ急ぐだけだった歩き方が少し変わります。作品の前で立ち止まる人もいれば、翌朝になって初めて気づく人もいるでしょう。どちらが正しいということはありません。

友七の逸話を知ってから館内を歩くと、書画は単なる装飾ではなくなります。旅人が持ってきたもの、宿が受け取ったもの、それを次の客が眺めること。世代を越えたやりとりの末尾に、いまの滞在がそっと加わるような気がします。これは史実の追加ではなく、宿の資料から私たちが受け取れる見方の一つです。

猿ヶ京温泉への道も、もとは人の往来で形づくられてきました。東京方面から車なら関越自動車道の月夜野インターから国道17号を北へ進むのが一つの道順です。交通機関をご利用の方も含め、現行の案内は旅籠屋丸一の交通案内で確認してください。季節が冬へ向かう時期は、道路や天候の情報も出発前に見ると安心です。

宿に着いたら、まず荷物を置く。そのあとで、館内の一枚に目を向ける。観光の予定から離れ、いま自分がいる場所を見る時間には、日常の速度を回復する余白があります。友七が集めた書画の話は、何かを見逃さないためのチェックリストではなく、立ち止まるきっかけです。丸一公式の書画案内も、来館前に眺めてみてください。

作品を一枚だけ覚えて帰るのでも十分です。次に訪れたとき、同じ場所に違う絵が掛かっていたら、その変化にも気づけます。旅人の手から宿へ渡った作品が、今度はお客様の記憶の中へ。丸一の書画は、そんなふうに見ていただけたらうれしいです。

七代目の話を知ると一枚の見方が変わる

友七の逸話に惹かれるのは、作品が「完成品」として突然宿に現れたわけではないからです。描いた人が滞在し、その人を宿が迎え、筆を執った時間があった。資料が教えるのはその骨格までで、詳しい会話や情景を記したものではありません。それでも、同じ紙を客と宿がそれぞれの立場から見たことを想像すると、一枚の書画が単なる古い品から、やりとりの跡へ変わります。

宿の歴史を語るとき、建物の年数や代数ばかりが先に立つことがあります。けれど暮らしの場所としての旅館には、受け取ったものを残し、次の人に見せる仕事もあります。作品の中身を全部理解できなくてもいい。なぜこの宿に書画があるのかを知るだけで、廊下の一枚を眺める数秒に厚みが出ます。

親子で泊まるなら、作者名を覚えるより「この線、何に見える?」と話すのもいいでしょう。二人旅なら、一緒に見たのに気になった箇所が違うかもしれません。作品への感想に正答はありません。旅先で見たものについて話すこと自体が、あとで思い出す宿の風景になります。作品そのものの説明や展示場所は、現地の案内を優先してください。

冬へ向かう季節には、館内で過ごす時間を長めに見込む旅もできます。夕食までの間、湯上がりのあと、翌朝の出発前。どの時間に作品が目に入るかで、受け取り方も変わるものです。ここでいう「回復」は身体への効果ではなく、急ぐ用事から少し離れ、自分の時間を取り戻すという意味。友七が残した書画は、そうした時間の目印にもなります。

確認先:旅籠屋丸一公式書画案内。展示の有無や見学可否は宿へご確認ください。

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この記事を書いた人
窪田 一生
旅籠屋丸一 代表取締役/15代目。群馬県・猿ヶ京温泉生まれ。このブログでは猿ヶ京温泉や旅の魅力、宿づくりへの想いをお届けします。