たくみの里を歩いていると、景色を見る目とは別に、もうひとつのセンサーが働きはじめます。そう、お昼ごはんを探す胃袋のセンサーです。
須川宿の昔ながらの町並みにすっとなじむ「須川茶屋」は、そんなセンサーが「ここです」と教えてくれる一軒。派手に呼び込むわけではないのに、暖簾の向こうから漂う、ゆっくり座っていきなさいという空気には、なかなか逆らえません。

本当の名物は、人懐っこいご夫婦かもしれません
須川茶屋は、たくみの里で最初にできた食事処として歩みを重ねてきました。みなかみ町観光協会の案内では、地元のお客さまや常連さんに支えられ、創業28年と紹介されています。
けれど丸一から見ると、須川茶屋の名物は料理だけではありません。店を切り盛りする人懐っこいご夫婦こそ、もうひとつの名物です。気取らず、よく笑い、初めてのお客さまにも昔から知っている人のように声をかけてくれる。料理を待つ時間まで、ちゃんと須川茶屋の味になっています。
実は、丸一の館主とご夫婦の娘さんは中学校の同級生。観光案内の地図には載っていない、地元ならではのご縁です。こちらが少しかしこまって紹介しようとしても、ご夫婦の顔を思い浮かべると、どうにも文章がよそ行きになりません。須川茶屋は「おすすめの店」である前に、顔の見える近所の一軒なのです。

店内には畳の座敷と太い梁、そして囲炉裏。椅子に腰を下ろした瞬間、散策で上がっていた肩がすとん。ご夫婦との会話に笑っているうち、予定表の隅に小さな“回復の余白”が生まれます。
緑色の正体は桑の葉。須川茶屋の桑うどん
須川茶屋を訪れたら気になるのが、鮮やかな緑色の桑うどん。地粉に桑の葉を練り込んだ、店の個性がきらりと光る一品です。見た目はなかなかの存在感ですが、すすってみれば、つるり。緑色だからと身構える必要はありません。むしろ箸のほうが先へ先へと働きます。
この土地では、昭和50年代ごろまで養蚕が盛んでした。田畑と養蚕農家の面影が残るたくみの里で桑うどんを味わうと、昼食がそのまま土地の物語の入口になります。おいしい社会科見学、と言ったら先生に怒られるでしょうか。けれど、旅先の歴史は舌から覚えると、案外忘れないものです。
季節の野菜と山菜。主役の横にも、里山がいる
須川茶屋の自慢は、季節の野菜や山菜を中心にした料理。なかでも山菜の天ぷらは絶品です。さくりと軽い衣のあとから、山菜らしい香りとほろ苦さが追いかけてきます。ひと口ごとに「これは何の山菜だろう」と話が弾み、気づけばお皿がきれいに空っぽ。おいしいものの前では、遠慮も衣も薄いほうがいいようです。
手づくりのしゅうまいも、うどんのお供にうれしい存在です。主役のうどんだけで終わるつもりだったのに、つい箸が横道へ。旅の寄り道は楽しいものですが、お膳の上でも同じようです。
「もう入らない」は、団子の前では信用できない
そして、須川茶屋の手づくり団子は絶品です。これは知り合いだから少し褒めておこう、という話ではありません。こんがりした焼き目、もちっとした歯ざわり、たっぷり絡むたれ。さっきまで満腹だったはずの人が「一本なら……」と急に弱気になる説得力があります。
食事の締めにも、散策途中のひと休みにも。温かいお茶と団子が並ぶと、時計の針まで少しゆっくり動くように感じます。

須川茶屋は、たくみの里散策の“ちょうどいい句読点”
たくみの里は、体験の家だけを急いで巡るより、宿場の町並みや田畑を眺めながら歩くのが似合う場所です。その途中で須川茶屋に腰を下ろし、桑うどんをすすり、団子を一本。店を出るころには、午後の景色まで少しやわらかく見えてきます。
観光地の食事処でありながら、地元の人の日常にもきちんと根を張っている。その距離感が、須川茶屋のいちばんの味なのかもしれません。丸一へ向かう前に、あるいは猿ヶ京温泉から少し足を延ばして。お腹と時間に、ひとつ余白をつくりに出かけてみてください。
須川茶屋 基本情報
- 住所:群馬県利根郡みなかみ町須川287-1
- 営業時間:11:00〜16:00
- 休業:12月中旬〜3月中旬は冬季休業、その他は無休
- 電話:0278-64-0784
※営業時間、休業日、料理内容は天候や仕入れなどで変わる場合があります。訪問前に店舗へご確認ください。価格は変更の可能性があるため、この記事では掲載していません。店舗情報は2026年8月8日にみなかみ町観光協会の案内を確認しました。

