玄関を入り、木の廊下をゆっくり進むと、古い時計が静かに佇んでいます。秒針の音を数えようとすると、旅の荷物と一緒に持ってきた忙しさが、少しずつ遠のいていきます。
旅籠屋丸一は、公式サイトで三百年の歴史を受け継ぐ宿としてご案内しています。けれど歴史は、年表だけにあるものではありません。柱の色、建具の手触り、そして長く時を知らせてきた道具の姿にも、過ぎた年月は残っています。
古時計は、宿の時間の案内人
古い時計は、新しい時計ほど正確でないことがあります。それでも眺めていると、時刻を知る以上の役目があったのだと気づきます。食事の支度、旅人の出発、家族の暮らし。時計の音は、その日の営みを一つずつ結んできたのでしょう。

道具を残すことは、物語を残すこと
古いものを何でも飾れば歴史になるわけではありません。今の滞在に馴染む場所を選び、掃除や手入れを続け、次の世代にも渡せる姿にしておく。宿では、その小さな積み重ねを大切にしています。
黒漆喰の壁や木のぬくもり、書や工芸と同じように、時計も館内の景色の一部です。写真を一枚撮ったら、少しだけ立ち止まり、音や光まで味わってみてください。

時計を見ないために、時計を見る
日常では、時計は次の用事を知らせます。宿では反対に、時計を眺めることで、急がなくてよいことを思い出せます。夕食までの半端な時間も、朝食後の短い時間も、予定の空白ではなく旅の中身です。
古時計の針が進むそばで、お茶を飲み、館内の書画を眺める。そんな何気ない時間に、三百年を越えて宿が守ってきたものが見えてくるように思います。
宿主から、旅を計画する皆さまへ
旅は、見どころの数だけで豊かになるものではありません。道中で交わした会話、窓から見えた雲、予定を変えて休んだ時間。あとから思い出すのは、案内表には載っていない場面だったりします。この記事も、予定を埋めるためではなく、ご自分に合う一日を選ぶための手がかりとしてお読みください。
旅の予定や営業内容は、季節や天候によって変わります。お出かけ前には公式情報をご確認ください。予定を詰め込みすぎず、宿に着いてから何もしない時間も残していただけたらと思います。その余白もまた、日常の気分をほどく「回復」のひとときです。
旅籠屋丸一公式サイトと、月刊まるいちの観光記事も、旅程づくりにお役立てください。
この記事を書いた人
窪田 一生
旅籠屋丸一 代表取締役/15代目
群馬県・猿ヶ京温泉生まれ。幼少期からテニスに打ち込み、全国大会やオーストラリア留学を経験。
帰国後、堀越高校、中央大学へ進学。
卒業後は中国整体・サプリメント・アロマ関連など、人の身体や暮らしに関わる仕事に携わる。
現在は旅籠屋丸一の代表取締役・15代目として、歴史を受け継ぎながら宿の新しい未来に挑戦中。
このブログでは、猿ヶ京温泉や旅の魅力、宿づくりへの想いをお届けします。

