12月の猿ヶ京は、朝の空気がきりっと冷たくなります。吐く息が白くなり、庭の土にも冬の気配が混じり始めた2016年。旅籠屋丸一では、新しい温泉付き客室の工事が動き出していました。
とはいえ、この頃はまだ立派な客室の姿はありません。見えていたのは基礎と配管、そして磨かれる前の梁や柱。完成後の景色を知っている今振り返ると、少し不思議な眺めです。
何もない場所に線が引かれ、柱が立ち、やがて誰かが旅の夜を過ごす部屋になる。これは、そんな最初の一歩を残した記録です。
庭に引かれた、未来の客室の輪郭
旧記事が公開された2016年12月2日、工事は配管と基礎を終え、骨組みの工程へ移っていました。地面に沿っていた工事が、いよいよ空へ伸び始める頃です。
基礎だけを見ても、初めての人には部屋の広さや窓の位置まではなかなか想像できません。それでも現場を毎日眺めていると、「ここが入口かな」「この辺りから庭が見えるのかな」と、スタッフ同士の会話が自然に弾みました。
梁と柱を磨く時間
次に進んでいたのは、梁や柱を磨く工程でした。木は一本ずつ表情が異なり、節の位置も色合いも同じではありません。職人さんの手が入り、ざらりとしていた材が少しずつ建物の一部になっていきます。
完成すると、柱は最初からそこにあったような顔で客室を支えます。けれど工事中には、運ばれ、組まれ、磨かれていく時間があります。客室づくりの記録を残す面白さは、普段は見えないその途中に出会えることなのかもしれません。
まだ部屋に名前がなかった頃
この時点の旧記事には、のちに客室へ付けられる五つの名前はまだ登場していません。正明、彦司、友七、文蔵、友右ェ門――それぞれの名前が紹介されるのは、もう少し工事が進んでからです。
名前のない柱だけの建物を前に、私たちは完成した姿を想像していました。二人で静かに過ごす夜、家族が集まる休日、お祝いの食卓。まだ何も置かれていない空間だからこそ、未来の景色はいくらでも思い描けました。
冬の工事と、スタッフの楽しみ
雪の季節を前にした工事には、予定どおりにいくかという緊張もありました。それでも旧記事に残っているのは、心配より「もう少しすると建物の雰囲気が分かってきますね」という楽しみの方です。
宿の仕事は、完成した客室を整えてお客様を迎えることだけではありません。どんな時間を過ごしていただきたいかを考え、その場所をつくるところから始まることもあります。庭に立つ柱を眺めていた時間も、今思えばおもてなしの準備の一部でした。
柱だけの景色から、旅の居場所へ
このあと屋根ができ、瓦が並び、壁に色が入り、少しずつ客室らしい姿へ変わっていきました。その続きを記録した「雪の前に屋根ができた日」では、五つの名前が付けられた頃の物語を紹介しています。
工事の順序をたどると、完成した客室が少し違って見えてきます。壁の向こうに柱があり、その下には基礎があり、そこへ多くの人の手と時間が重なっている。旅先の建物には、目に見えない物語が静かに残っています。
現在の温泉付き客室へ
今の客室の様子や宿泊プランは、旅籠屋丸一公式サイトでご案内しています。工事中の記事にあった完成予定や開業予定は、もちろん当時だけのものです。
柱だけだった場所が、今では誰かが湯に浸かり、灯りを落として、静かな夜を過ごす場所になりました。慌ただしい日常を少し置いて、気持ちに回復の余白をつくる。そんな時間の舞台が、ここから始まったのだと思うと、冬の庭の景色もなかなか愛おしく感じられます。
この記録について
初回公開:2016年12月2日/全面更新:2026年8月10日。旧記事に記された配管・基礎・梁・柱の工程を基に、当時の工事記録として再構成しました。期限切れの完成予定と広告リンクは削除しています。掲載写真は権利確認後の第2段階で追加します。
旅籠屋丸一のご予約
空室、料金、宿泊プランは日付・人数・客室によって変わります。最新情報は旅籠屋丸一の公式予約ページでご確認ください。
予約を確定する前に、宿泊日、人数、客室、食事、合計料金、変更・取消条件をご確認ください。
この記事を書いた人
窪田 一生
旅籠屋丸一 代表取締役/15代目
群馬県・猿ヶ京温泉生まれ。幼少期からテニスに打ち込み、全国大会やオーストラリア留学を経験。
帰国後、堀越高校、中央大学へ進学。
卒業後は中国整体・サプリメント・アロマ関連など、人の身体や暮らしに関わる仕事に携わる。
現在は旅籠屋丸一の代表取締役・15代目として、歴史を受け継ぎながら宿の新しい未来に挑戦中。
このブログでは、猿ヶ京温泉や旅の魅力、宿づくりへの想いをお届けします。

