午後の光が少しやわらぎ、猿ヶ京の山の影が長くなり始める頃。玄関先で車の音がすると、私たちは「そろそろお客様がお着きかな」と顔を上げます。
長い道のりを越えて門をくぐったとき、ほっとした表情を見せてくださる方もいれば、「途中で寄り道をしすぎました」と笑う方もいらっしゃいます。旅の始まり方は、それぞれです。
それでも、宿主としてひとつおすすめするなら、温泉旅館の到着時間は15時台。夕食までに少し余白を残しておくと、温泉旅館で過ごす時間が、ぐっとやわらかく始まります。
温泉旅館の到着時間は、15時台がおすすめです

旅籠屋丸一のチェックインは15時からです。フロントは14時30分に開きますが、早く着けばすぐ客室へ入れるというわけではありません。私たちはお客様をお迎えする直前まで、客室を整え、湯や館内の準備をしています。
15時を少し過ぎた頃なら、慌てずに受付を済ませ、宿の説明を聞いてからお部屋へ向かえます。荷物を置き、上着を脱ぎ、お茶をひと口。窓の外へ目を向ける頃には、車や電車で移動してきた時間が、少しずつ遠ざかっていくはずです。
温泉旅館へ泊まる日は、観光地を最後まで回り切ることだけが旅ではありません。宿へ着いてから夕食までの二、三時間も、楽しみに含めていただけたらと思います。
18時の夕食までに、ひとつ予定を入れない

旅籠屋丸一の夕食は、万葉亭の食事処で18時に一斉に始まります。終了は20時です。料理は季節と仕入れに合わせてご用意し、温かいものは温かいうちにお出ししたい。そのため、夕食の開始時刻は宿の一日の中でも大切な時間です。
15時台に到着すると、夕食までにはまだ余裕があります。けれど、その余白へ新しい観光予定を詰め込む必要はありません。
お部屋で今日の景色を話す。館内の書や古い建物を眺める。温泉へ向かい、湯上がりにまた少し休む。何もしなかったようでいて、そんな時間ほど、帰ってから不思議と思い出すものです。
18時が近づいたら、浴衣を整え、灯りのともる食事処へ。急いで席へ着くのではなく、料理の香りを感じながら夕食を待つ。宿の夜は、そこからゆっくり深まっていきます。
到着したら、すぐ温泉へ行かなくても大丈夫
「せっかく温泉旅館へ来たのだから、まずお風呂へ」と思われるかもしれません。もちろん、それも素敵な過ごし方です。ただ、長い移動のあとなら、先に客室で水分をとり、少し呼吸を整えてからでも遅くありません。
窓辺に座って山を見る。館内案内をめくる。荷物の中から読みかけの本を出す。温泉へ入る前の静かな時間も、温泉旅行の一部です。
日常では、何も決めずに座っていることが案外むずかしいもの。宿へ来た日くらいは、時計から少し離れてみてください。その時間が、気分と日常に回復の余白をつくります。ここでいう回復は身体への効能ではなく、自分の時間を取り戻す旅の体験を表しています。
到着が遅れそうな夜は、安全をいちばんに
旅には、予定どおりにいかない日もあります。関越道が混み、バスが遅れ、思いがけず雨が強くなる。そんなときは、遅れを取り戻そうと急がず、到着が遅くなると分かった時点で宿へご連絡ください。
特に夕食付きのご予約では、到着時刻によって料理のご用意に影響する場合があります。運転中の電話は避け、安全な場所へ停車してからご連絡を。山あいの道は、日が暮れると昼間とは違う表情になります。冬には積雪や凍結もありますので、何時に着くかより、無事に玄関へたどり着くことが何より大切です。
ご連絡をいただければ、宿でもお迎えの準備を考えられます。「遅れて申し訳ない」と気を張りすぎず、まずは安全にお越しください。
早く着いたときは、旅の速度を少しゆるめる
反対に、予定よりずいぶん早く猿ヶ京へ着く日もあります。フロントが開く前は、玄関や客室へご案内できない場合がありますので、早着が分かった段階で一度ご相談ください。
天気がよければ、安全に立ち寄れる場所で景色を眺めたり、営業中の店でお茶を飲んだりするのもよいでしょう。周辺施設の営業時間や休館日は変わるため、当日の公式案内をご確認ください。何かをもう一つ達成するためではなく、宿へ向かう気持ちを整えるための寄り道です。
そして15時になったら、どうぞ丸一の門をくぐってください。建物の間を抜け、客室へ歩くうちに、町の時間とは違う宿の時間が始まります。
朝11時まで、宿で過ごす旅は続きます
旅籠屋丸一の通常のチェックアウトは11時です。朝食は8時から9時まで。夕食前と同じように、朝食後にも少し余白があります。
朝の光の中でもう一度庭を見る。部屋へ戻り、お茶を飲む。忘れ物がないか確かめながら、急がず荷物を整える。15時の到着から翌朝11時の出発までを一続きの旅として考えると、温泉旅館での一泊は思っているよりゆったりしています。
観光地をいくつ訪ねたかではなく、どんな気持ちで夜を迎え、どんな朝を過ごしたか。そんな記憶を持ち帰っていただけたら、宿主としてうれしく思います。
旅の前に、時間だけご確認ください
チェックイン、チェックアウト、食事、フロントの対応時間は、宿泊日やプラン、営業体制によって変わる場合があります。ご出発前に、旅籠屋丸一公式「よくある質問」と予約確認書をご覧ください。
温泉旅館の到着時間に、すべての宿へ共通する正解はありません。ただ、旅籠屋丸一へお越しになるなら、15時台を目安に。夕食までの何も決めていない時間を、どうぞ楽しみにいらしてください。
掲載内容は2026年8月15日時点の公式情報に基づきます。チェックイン、チェックアウト、食事、フロント対応は変更される場合があります。最新の公式案内と予約内容をご確認ください。
この記事を書いた人
窪田 一生
旅籠屋丸一 代表取締役/15代目
群馬県・猿ヶ京温泉生まれ。旅籠屋丸一の15代目として、歴史を受け継ぎながら宿の新しい未来に挑戦中。このブログでは、猿ヶ京温泉や旅の魅力、宿づくりへの想いをお届けします。

